橋下徹と安倍晋三を結びつけたブレーン八木秀次

しんぶん赤旗8月17日付

橋下「維新」逆流の正体 第5部 国政への野望3 「靖国史観」を大阪から
 
「日本全体で一番必要なことは、子どもたちに近現代史の教育を与えることだ」。5月下旬の府市統合本部会議。強権政治をすすめる司令塔で、橋下徹大阪市長近現代史教育施設づくりの構想をぶちあげました。
いまなぜ近現代史教育施設か。「中国や韓国がいろんなことを日本に言ってくるのかの根本を知らないと…僕は日本のいまの近現代史に大いに不満を持っている」「こんなことをやっていたら、日本の国をしょって立つような人材は育たない」
別の場ではもっと露骨です。「学校の現場は育鵬社の教科書は全然採択しない。育鵬社の教科書とかの考え方もしっかり子どもたちにださないといけない」(中略)
「橋下市長は、靖国神社の展示館『遊就館』の大阪版をつくろうとしている」。中学校で社会科を教える教師は声を強めました。
「橋下さんのいう『日本をしょって立つ人材』というのは、黙って働く、戦場へも赴く“忠実”な若者です。施設見学を学校教育の一環として義務づけることもやりかねません」と指摘します。安倍氏に酷似 これらの動きは、かつて安倍晋三内閣が“美しい国”の名でアメリカと一緒に戦争する国をめざしたときとよく似ています。
橋下氏が代表を務める「維新の会」の「教育基本条例」案を発表した記者会見で、坂井良和市議団長は「戦後レジーム(体制)からの脱却を大阪から」進めると表明しました。
戦後レジームからの脱却」は、安倍氏が多用していた言葉。戦後日本が守り続けてきた憲法の平和原則や民主主義を戦前の「国体」に反すると総括するものです。
安倍氏も2月、大阪で開かれた日本教育再生機構の集会で、「維新」の教育基本条例を「私たちの方向とまったく合致している」と持ち上げました。
15日、野田民主党政権の閣僚が靖国神社を参拝して世界を驚かせましたが、橋下氏は知事辞職直前の昨年10月、靖国神社と関わりが深い大阪護国神社の秋季例大祭に知事として40年ぶりに正式参拝しています〈日本会議大阪事務局発行『日本の息吹(大阪版)』11年12月号〉。
日本教育再生機構八木秀次理事長は、「維新八策」の教育「改革」が「事実上、自虐史観からの脱却を目指したもの」「保守本流たる安倍氏と維新の会は思想的に気脈を通じている」と評価しています(『SAPIO』5月16日号)。
次期総選挙に向け、橋下・「維新」が新党を準備し、安倍氏に参加要請していると一般紙(「朝日」15日付)が報じました。安倍内閣がなしえなかった「戦争できる国」を橋下氏がタッグを組んで推進しようとしています。

 
朝日新聞8月31日付

歴史認識に一転「持論」 橋下市長、慰安婦問題で政府批判
 
大阪市橋下徹市長が、歴史認識をめぐり踏み込んだ発言を始めた。南京事件尖閣諸島の領有問題で慎重な態度を示してきたが、一転して従軍慰安婦問題で政府見解に疑問を投げかける。背景に何があるのか。
今月10日、韓国の李明博大統領が日韓両国が領有権を主張する竹島(韓国名・独島)に上陸。旧日本軍の慰安婦問題に進展がないことを理由に挙げた。
すると、橋下氏は21日、報道陣にこう答えた。「強制連行があったかどうかの確たる証拠はなかったというのが日本の考え方だ」
日本政府は1993年、軍の関与を認め、慰安婦の募集や移送について強制性を認める官房長官談話(河野談話)を出している。それに疑問を挟んだ格好だ。
3日後の24日、橋下氏はさらに踏み込んだ。安倍内閣が2007年に閣議決定した「資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述が見あたらなかった」との答弁書を持ち出し、こう述べた。「韓国サイドに証拠があるというんだったらしっかり出してもらいたい」
これまで橋下氏は、歴史認識問題には慎重な発言を通していた。名古屋市河村たかし市長が2月、南京事件を否定する発言をした際も「歴史的事実について発言するなら知見も踏まえ、慎重にすべきだ」と述べるにとどまり、石原慎太郎都知事尖閣諸島購入発言にも当初「ふつうの政治家じゃなかなか思いつかない」と持ち上げたものの、持論は述べなかった。
橋下氏は30日、踏み込んだ発言をした理由を尋ねた記者にこう答えた。
「特に領土問題に関してはきちんとした話ができるまでは、実力行使でその現状を壊すことがあってはならない。それを韓国が一歩踏み越えた。これにはね、きちんと反論しなければいけない」
 
安倍元首相と急接近
 
橋下氏が慎重姿勢から転じた直後だ。「新しい歴史教科書をつくる会」から分かれた「日本教育再生機構」(東京)の幹部に全国紙の記者から電話が入った。「安倍氏を念頭に『慰安婦』で踏み込んだのだろうか」
河野談話批判の急先鋒で知られる安倍晋三元首相。総選挙をにらみ、安倍―橋下連携が騒がれ始めたタイミングと符合していた。
だが、この幹部はそっけなく答えたという。「持論を述べただけだよ」
一般的に「持論」というと、昔からの信念を思い浮かべがちだ。ただ、この「持論」はそうでもなさそうだ。この幹部によると、知り合った大阪府知事就任前夜の橋下氏は、教育や歴史認識に一家言もつ人物ではなかったという。
同機構の関係者には、「持論」は知事になってから、自分たちとのやり取りを通して醸成されたように見える。実は、安倍氏と橋下氏ら大阪維新の会のメンバーを引き合わせたのもまた、同機構だった。
今年2月、大阪市であった教育集会で、安倍氏と維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事が登壇した。その打ち上げで、松井氏側近が「私たちがやりたいことは安倍内閣が目指したものと一緒」と話すと、安倍氏は上機嫌だったという。
関係は次第に深まり、維新の会側が安倍氏に連携を打診するまでになった。この幹部は現下の状況についてほくそ笑む。「思い描いた以上に進んでいる。おもしろいぐらいだ」(後略)